2014年5月10日

刑事訴訟実務の基礎―論告要旨起案

論告要旨
(罪名) 窃盗、傷害
(被告人)川口 正吉

第1 事実関係
 本件公訴事実は,当公判廷で取調べ済みの関係各証拠により,その証明は十分である。
第2 情状関係
 本件は,被告人の共犯者に対する借金を返済するがため,共犯者と相通じてスーパーマーケットに赴き,いわゆる万引き窃盗をした後に,同窃盗行為を監視していた私服警備員からの追及を逃れるために同人に対して傷害を負わせた事犯である。
1. 犯行動機
 本件犯行は,自らが共犯者に借りた金銭の返還を迫られたが,給料日前であったことから手持ちが僅少であり,共犯者からの万引き窃盗の誘いがあったため,これを受諾して行ったものであるが,就業先からの給与の前借や,実弟に借りるなどの手段を検討することなく,本件犯行に及んでいるのであって,非常に短絡的である。
2.計画性
 被告人は,予てから交友のあった共犯者とともに本件犯行に及んだと認められるが,本件犯行以前に被告人は共犯者と数回にわたって会合しており,その会合の中で,本件犯行についての示し合わせも行われており,かつ,本件犯行においては,転売益を得ることを目的としていて,高額な商品を狙って窃取したものであり,計画性が認められる。
3.窃盗の被害
 被告人が万引き窃盗によって,スーパーマーケットに対して与えた被害は,これが商品として売られた場合の価額で換算すると,少なくとも,約2万92円であり,小額ではないことが明らかである。(さらに,共犯者もレジ袋に多量の商品を詰め込んで逃走したことも考慮されよう。)
 また,窃取された商品を販売することはできないので,被害商品はすべて廃棄されることとなった。
4.傷害の態様と被害
 被告人は,私服警備員から,本件万引き窃盗についての追及を逃れるがために,同女に対し,男女間の体力差を無視した強い力により,数度にわたり暴行を加え,よって同女に加療7日間を要する傷害を負わせたものであり,同女からの追及を逃れる目的であったことと相俟って,社会的に相当な非難を受ける態様のものであったし,同女においては,いつ同様の暴力を振るわれるかわからないため,仕事に影響が出てしまう程度には,同女にトラウマを植えつけたものであり,被害の程度は大きいといえる。
5.犯行後の事情
 本件犯行により,被害をこうむったスーパーマーケット及び私服警備員は,ともに本件犯行が悪質なものであって,厳重処罰を望むものであることを明らかにしており,窃盗の点については,被害弁償こそなされているものの,スーパーマーケットにおける高額商品の販売機会を失わせて,実質的な被害を与えたこと,傷害の点についても,治療費等の弁償を受けてはいるものの,いまだ本件犯行が同女に精神的な面での不安感を与え続けていることなどを鑑みると,事情が改善したということはいえず,この点における酌量の余地はないものと思料する。
6.被告人の前科前歴及び再犯可能性
 被告人は,過去において,窃盗2犯,傷害1犯につき,確定判決の宣告をされており,(うち窃盗1犯および傷害1犯については執行猶予つきではあるが,)規範意識に欠けているということがいえるし,被告人は射倖性を有する遊戯に没頭する嫌いがあり,金銭の管理能力が不足していることがうかがえ,再犯の恐れが認められる。

第3 求刑
 以上の諸事情を考慮し,相当法条適用の上,被告人を,
  懲役3年

に処するを相当と思料する。

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