2014年11月26日

最大判平成26年11月26日

事件名:選挙無効確認訴訟  平成26年(行ツ)第78号,79号

結果:原判決破棄・被上告人の請求棄却

概要:平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙(最大較差4.77倍)が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものであるとされた事案

認定事実
(1)現行制度の概要
  現行法における参議院議員選出のための選挙については,議員総定数が242人となっており,内訳は比例代表選出議員96名及び選挙区選出議員146名であるところ,3年ごとにそれぞれを半数改選することとなっている。

(2)判例の経緯

①最大判昭和58年4月27日・民集37巻3号345頁
  参議院議員選挙の投票価値不平等問題の基本的な判断枠組みを示した(下記参照)。
「どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公平かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのであ」って,「国会は,正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由もしんしやくして,その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであ」るから,「国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認」できない程度に至った場合には,やむを得ない限度を超えたものとなる。

②最大判平成8年9月11日・民集50巻8号2283頁
  ①の示した判断枠組みにしたがい,最大較差が6.59倍に達していた平成4年選挙を「違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた」(いわゆる違憲状態)と判示した。

③最大判平成10年9月20日・民集52巻6号1373頁,最大判平成12年9月6日・民集54巻7号197頁
  ②以後に行われた2回の通常選挙につき,①の判断枠組みによって,違憲状態に至っていたとはいえないと判示した。

④最大判平成16年1月14日・民集58巻1号56頁,最大判平成18年10月4日・民集60巻8号2696頁,最大判平成21年9月30日・民集63巻7号1520頁
  平成18年公職選挙法改正による新議員定数配分規定の下における3回の通常選挙につき,違憲状態ともいわず,違憲であるともいわない判示をした
  もっとも,平成18年大法廷においては,「投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる」旨の指摘がされた。
  また,平成21年大法廷においては,「最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要」である旨の指摘がなされた。

⑤最大判平成24年10月17日・民集66巻10号3357頁
  ①の判断枠組みにしたがって,最大較差5.00倍であった平成22年通常選挙につき,「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず」「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある」として,2例目の違憲状態判決を示した。

(3)立法府の動き
  国会では,(2)の大法廷判決が出されるのに対応する形で幾たびかの公職選挙法改正を行っている。
  特筆すべきは,今日に至るまで,ブロック内の定員の増減をすることで若干の較差是正を行ってきたが,④の平成16年大法廷が示された後に,同年12月に参議院改革協議会の専門委員会において,現行選挙制度による選挙であった場合,各選挙区の定員数調整をしたとしても,その較差は4倍を下回ることが相当に困難である旨の意見が示されていたにもかかわらず,抜本的な制度改革がなされていなかったことである。
  もっとも,⑤判決によって違憲状態であることが示された後に,平成25年通常選挙(本件選挙)に向けて選挙区選出議員について4増4減する改正がなされている。
  また,同年改正附則には平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行い結論を得るとの文言を付した。

判旨
   最高裁大法廷は,①大法廷判決において示された判断枠組みを用いた。
  その判断枠組みとは,(1)当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,(2)上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが 国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かというものである。
(1)については,⑤大法廷判決において示されたのと同様に,「本件選挙当時において,本件定数配分規定の下で,選挙区間における投票価値の不均衡は,平成24年改正法による改正後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものではある 」とした。
(2)については,認定事実(3)において示したのと同様に,本件選挙に至るまでの立法府の行動および平成24年改正公選法の附則において,「平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする」旨を明示していることに鑑みて,「本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が 憲法に違反するに至っていたということはできない 」として,結論として従前通り違憲状態に至っていたことを宣言したにとどまった。