2013年10月19日

重判24年度版―商法1「株主総会の特別決議を欠く新株発行の効力」

【科目】
重判24年度版―商法1「株主総会の特別決議を欠く新株発行の効力」

【判決日時・種類】
最判平成24年4月24日

【収載判例集】
民集66巻6号2908頁
判時2160号121頁
判タ1378号90頁

【事実の概要】
 本件は、被告会社Yが、ストックオプションを付与する目的で経営陣に対して制限付(当初の行使条件)で、株主総会の特別決議を経た上で発行された新株予約権が、後の会社の事情によって、上場条件の前提となる株式の公開が困難となったため、当該条件を変更した上で、新株予約権を行使させたことに対して、当該会社の監査役が主位的に株式の発行無効とする形成の請求を、予備的に本件株式発行が当然無効であることを確認する請求をした事案である。

<新株予約権に付された行使条件>
・行使時にYの取締役であること
・他の行使条件については、Yと当該新株予約権を得る者との間の契約によって規定すること

<訴訟提起までの流れ>
①新株予約権の経営陣への無償発行につき、上記行使条件を付した状態で株主総会の特別決議を経た
②Yの取締役会において、本件補助参加人たるA,B及びCに対して新株予約権を割り当てる決議をした上、Yは新株予約権を発行した
③当該発行に際して、YはA,B,Cとの間に、行使条件について「Y株式が日本証券業協会に店頭売買有価証券として登録され、又は証取所に上場されてから6ヶ月が経過するまで当該新株予約権を行使できない(上場条件)」ことを内容の一部とする契約を締結した
④時間が経過し、Yの上場が困難となったため、Y取締役会で上場条件を廃する決議(本件変更決議)がなされた
⑤同日、本件変更決議を受けたAらはYとの契約を、本件変更決議と合致するような内容に変更した
⑥Aらは、行使条件の変更を受けて新株予約権の権利行使期間内において新株予約権を行使し、Yは株式を発行した
⑦Yの監査役である本件原告たる監査役Xは、本件訴訟を提起した

※なお、Yは事実関係から、取締役会及び監査役設置会社であり、かつ非公開会社であることが伺われる

<本件訴訟について>
原告:
X(Yの監査役)
被告:
Y(会社)

請求:
主位的⇒会社法828条1項3号に基づく、株式会社の株式発行行為の将来的失効請求(同834→839により将来効としての無効)
予備的⇒本件変更決議の当然無効の確認請求

趨勢:
第1審…主位的請求を認容、Y控訴
原審…Yの控訴棄却、Y上告

【判旨】
上告棄却

①新株予約権を発行するにつき、当初の行使条件が付された状態で株主総会の特別決議を経てはいるものの、当該行使条件を変更することに対する委任がなされていない限り、取締役会において当初の行使条件を変更することは許されず、かような変更をした本件変更決議は無効である。
②Yが、非公開会社であることに鑑みると、本件の如く、新株予約権の発行に株主総会の特別決議を要する(238Ⅱ・309Ⅱ⑥)のは、既存株主の保護の要請が働くからであって、この要請に応えるべく、法は訴えによる当該発行行為の無効を認めるという救済手段を設けており、株主総会の特別決議を経ないままで、行使条件が変更された本件の如き場合には、重大な法令違反が存するということができる。
③したがって、本件変更決議は、重大な法令違反によって瑕疵を帯びた手続であるということができ、これは無効原因となるため、上告は棄却されなければならない。

2013年10月12日

重判24年度版―民法2「消費者契約である生命保険契約における保険料不払いによる無催告失効条項の効力」

【科目】
重判24年度版―民法2「消費者契約である生命保険契約における保険料不払いによる無催告失効条項の効力」

【判決日時・種類】
最判平成24年3月16日

【収載判例集】
民集66巻5号2216頁
判時2149号315頁
判タ1370号115頁

【事実の概要】
<前提となる契約>
 本件は、被保険者たるXと保険者(生命保険会社)たるYの間において締結された医療保険契約及び生命保険契約(以下、本件各契約)につき、本件各契約締結に関わる約款所定の失効条項(以下、本件失効条項)の効力が問題となった訴訟である。なお、本件各契約は消費者契約法第2条第3項のいう「消費者契約」に該当するものであるため、もっぱら消費者契約法上において本件失効条項の効力如何が問われている。

<契約内容のうち、本件に関わる部分>
 本件各契約に関わる約款には、大要、以下の内容が規定されていた。
①保険料については各月中(初日から末日まで)に相当額を支払うこと
②猶予期間を1ヶ月と設定し、この猶予期間内に(当該前月の)保険料支払がない場合に失効とする
③なお、この猶予期間内に支払がない場合でも、支払うべき保険料相当額と(支払遅延に伴う)利息の合計額が、解約返戻金[中途解約の際に保険者より返戻される金銭(大抵は解約までに支払った保険料の幾ばくかが返される)]の額を上回らない場合には、YがXに金銭の貸付をした上で、貸し付けられた金銭によって保険料が支払われたと看做す
④保険契約が失効してから、本件各契約については、1年ないしは3年以内に、Yの承諾を得ることによって本件各契約の効力を復活させることができる

 なお、当該約款における効力について、保険料の支払い(債務の弁済)についての催告をすることなく、直截に失効させることができる、という点が争いの種となった。

<事実の流れ>
 Xは、本件各契約によって支払い義務を負っていた保険料につき、口座振替によるものとされていたところ、振替口座の預金残高不足により、①及び②に該当する状態を惹起した。
 すなわち、保険料支払いの一次的な期限である当月中はもとより、猶予期間である1ヵ月間を超えて、当該保険料を支払わなかったということとなり、契約は失効したことになった。
 その後、Xは支払うべきであった保険料を添えて本件各契約の復活をYに申し込んだところ、Yは、Xが特発性大腿骨頭壊死症(特定疾患[難病])と診断されたことを理由に本件各契約の復活を拒否した。
 そこで、XがYを相手方とした訴訟を提起した。

<本件訴訟について>
 XのYに対する本件各契約の存在を確認する訴訟である。
・第1審
 Xは、本件各契約の約款は「......消費者の利益を一方的に害する契約」であり、効力を生じない(消費者契約法第10条)ため、契約は有効なるものとして存続していると主張した。
 Yは、本件失効条項により本件各契約は失効している。消費者契約法10条違反も存在しない、とした。
 これらの主張に対し、第1審はXの請求を退け、請求棄却判決を下した。
 X控訴。
・原審
 原審は、第1審の判決を取り消し、消費者契約法10条によって、本件各契約における約款は無効であるとして、請求認容判決を下した。
 Y上告受理申立て。

【判旨】
破棄差戻し

本件各契約における約款と消費者契約法10条の関係について、

Q.信義則に反して消費者の利益を一方的に害するか否か?

<結論>
No!!

<理由>

①約款の記載上、(保険料不払いという)「債務不履行の状態が一定期間内に解消されない場合に初めて失効する旨が明確に定められている」
+約款における一定期間は、「民法541条により求められる催告期間よりも長い」
+約款条項③のごとく「1回の保険料の不払により簡単に失効しないよう」にされている
「保険契約者が保険料の不払をした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮がされているものといえる」

②約款所定の失効に至るまでの間に保険料不払についての督促をするなど、Yにおいて、約款の下に本件各契約やそれに類似する契約を締結する多数の保険契約者が自らの(保険料不払という)債務不履行を覚知できるような態勢が整えられ、かような態勢を実現すべくYが善処していると仮定するならば
「本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらない」

原審の事実認定において、かような論点の下に再度、Yの設けた約款の有効性について吟味検討させるべく、原審の判決を破棄し、更に審理を尽くさせるべく原審に差戻す。

2013年10月7日

重判24年度版―刑事訴訟法1「参考人としての取調べと黙秘権の保障」

【科目】
重判24年度版―刑事訴訟法1「参考人としての取調べと黙秘権の保障」

【判決日時・種類】
東京高判平成22年11月1日

【収載判例集】
判タ1367号251頁、 東高刑時報61巻1-12号274頁

【事実の概要】
①訴因(公訴事実)
 大要すると、被告人が、自らの所属する消防団の受持ち区域内において連続放火事件(本件事件)を起こしたとして、現住建造物等放火(刑108)・非現住建造物等放火(同109Ⅰ)・建造物等以外放火(同110Ⅰ)の罪責を問うものである。(原審はいずれの事実も認容し、有罪判決を下した)
②本件控訴理由の基礎となった事実
 被告人が所属する消防団の団長より、被告人の挙動に不審な点があり、本件事件の犯人である可能性がある、という情報を覚知した警察が、被告人を調査する目的で尾行をしていたところ、被告人を見失ったタイミングで放火が発生したということが判明した。
 更に警察は尾行を続けていたが、数日後に、被告人が他の消防団員のために缶コーヒーを買っているタイミングでまたもや放火が発生したことから、参考人として被告人を事情聴取し、「缶コーヒーを買いに意って帰ってきた時には、誰とも会っていません」などという、被告人に不利益な内容のKS(本件調書)が作成された。
 さらに後日、被告人の同僚消防団員への事情聴取や、本件事件の発生した現場付近の防犯ビデオの解析などを行った結果、被告人による犯行である可能性が高まったため、被告人に対する通常逮捕状の発付を得たうえ、被告人を任意同行し、任意の取調べを行い、上申書を書かせて被告人を通常逮捕した。
③本件控訴理由
 原審は、公訴事実の証明の一部として、本件調書を用いていたが、本件調書は、被告人が参考人として黙秘権が告げられていない状態において作成されたものであり、証拠能力を認めることができない。したがって、証拠能力が認められない証拠として取調べが行われたことによって事実誤認が生じた、として、東京高裁に控訴した。
 
【判旨】
控訴棄却(確定)

本件調書は「捜査機関が、被告人に黙秘権を告げず、参考人として事情聴取し、しかも放火発生時の被告人の行動などに関して、被告人に不利益な事実の承認を録取した書面を作成したものであるから、……黙秘権を実質的に侵害して作成した違法がある」として、証拠能力を否定したが、本件調書を違法収集証拠として排除したとしても合理的疑いを超えた証明ができるとして、「この違法は判決に影響を及ぼすほどの違法ではな」いと述べて、原判決に事実誤認はなく、被告人側の控訴を棄却した。

2013年10月6日

重判24年度版―民事訴訟法1「文書提出命令(公務秘密文書)―医療事故報告書」

【科目】
重判24年度版―民事訴訟法1「文書提出命令(公務秘密文書)―医療事故報告書」

【判決日時・種類】
東京高決平成23年5月17日 (抗告事件)

【収載判例集】
判時2141号36頁,判タ1370号239頁

【事実の概要】
①本件本案訴訟の概要
 Aが医療過誤(医師や看護師の安全配慮義務違反)を原因とする不法行為ないし債務不履行によって死亡したとして、Aの遺族であるXが独立行政法人国立病院機構Yを相手方として、損害金及び慰謝料を請求した事件である。
 この本案訴訟において、Xは医師らの過失を証明するため、医療自己評価委員からの付託を受けた専門医が作成した、医療事故報告書(本件報告書)の文書提出命令(民訴法220条1号及び4号に基づいたもの)を申し立てた。
②文書提出命令に対する原審の判断
 原審の東京地裁立川支部は、インカメラ手続を用いて文書提出義務を定める220条各号の規定につき検討した。その結果は以下の通りであり、これに基づいて同裁判所は決定で、本件報告書に対して文書提出命令を出した。(東京地立川支決平成23年2月9日)
(1)1号
 原告Xらは、本件報告書の要旨をまとめた文書を所持してはいるものの、本件報告書そのもは所持していないため、当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持している場合に該当しない
(2)4号ロ
 確かに公務秘密文書であることは否めないが、本件報告書が提出されることによって公共の利益が害され、あるいは公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるとはいえないため本列記事項には該当しない
(2)4号ニ
 文書の一部を削除すれば開示によって文書所持団体の意思形成過程に著しい影響を及ぼさないため、同趣旨保護のために設けられた本列記事項に該当しない

以上の地判支部決定に対してYが抗告したのが本件抗告訴訟である。


【判旨】
原決定中認容部分取消、(文書提出命令)申立て却下

(1)1号
 本件抗告訴訟において、「Xは本件報告書が民訴法220条1号に」該当すると主張しているのであるが、本件報告書の要旨についてまとめた『国立病院機構院長協議会による評価依頼結果の報告ならびに災害医療センターの見解』という甲A6号証につき、準備書面におけるYの認否としての評価内容は、甲A6号証記載の通りである旨に過ぎず、「積極的に当該文書の存在に言及した場合には当たら」ず、書証として本件報告書を提出すべきであるとはいえない
(2)4号ロ
 本件報告書は、Y内部における医療事故を調査して、「将来の医療紛争が予想される相手方らへの対応の方針を決定するための基礎資料として使用すること」が主たる目的であると推認でき、「Y内部において組織的に使用される内部文書であ」り、本件の医師には「Yの職員の職務の一環として、守秘義務を課された上」、評価を行う専門医が、公務員の立場として職務を遂行していたことが認められるから「公務員の所掌事務に属する秘密が記載されたものであることは明らかである」
 つまり、本件報告書が文書提出義務の対象となってしまうと、早期の紛争解決のために第三者的な意見を基にして形成される、今後の相手方への対応の指針についての意見の表明を比較的短時間で行わなければならない報告事務の趨勢を医療関係者や患者側関係者にも提示しなければならないことになるが、この提出によって非難・批判がなされることは想像に難くなく、「自由かつ率直な意見の表明」をするという、報告書作成の意図や表明自体の「支障を来すこととなるおそれが十分に考えられるところであ」って、公務としての報告「の遂行に著しい支障を生じるおそれが具体的に存在すると」認められるため、本列記事項に該当する
(3)4号ニ
 本件報告書は、公務員によって作成された文書であるといえるため、本列記事項括弧書きのいう、「国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるもの」に準ずるものであると解するため、本列記事項にも該当する

として、原決定における3つの該当性不充足の判断を覆した上で、本件文書の提出義務を否定した。