2014年4月22日

刑事訴訟実務の基礎―起訴状起案,第一稿―

 法務省法務総合研究所作成の「法科大学院用教材 事件記録教材 第4号 第1分冊」(以下,第1分冊)及び「同 第2分冊」(以下,第2分冊)の各種書面等を総合的に審査した上,検察官としての終局処分につき検討した結果,起訴を相当とすることが思料されたため,以下の通り起訴状を作成した上,公訴事実の記載につき付言した書面も添付し提出した。
 なお,本稿は上述第1分冊及び第2分冊に基づき,実際の事件をベースに一部を改変した上で教材として用いていることから,記載されている人物・団体等はすべて偽のものであって,同名の人物・団体等とはまったく関係がない。



平成155月検第○○○号
起訴状

平成155月某日
甲府地方裁判所 殿
                              


甲府地方検察庁
   検察官  検事     山川  達夫
下記被告事件につき公訴を提起する。
本籍  長野県小山市大町622番地4
住所  甲府市平田6丁目5番4号
職業  新聞販売店店員

勾留中     川口  正吉
昭和10年4月29日生

公訴事実
 被告人は,平成15年4月30日午後5時19分ころ,山梨県甲府市河原町95番地所在サンフィールド河原アルファ店において,商品を窃取しようと企て,共犯者池原五郎と共謀の上,同店の商品を未会計の状態のまま店外へ持ち出したところ,予てから被告人の行動を監視していた同店の私服警備員久保田幸子に声をかけられ,逮捕されそうになったので,同女からの現行犯逮捕を免れるために,同女に対して暴行を加えて加療約7日を要する右第5指捻挫及び左拇指捻挫の傷害を負わせたものである。
罪名及び罰条
事後強盗致傷    刑法238条,240条

以上

 書式については,この通りではない。
 また,初稿であるため,内容の正確性及び記載事項の妥当性等については,注意すること。 

2014年4月4日

【復習】民事訴訟実務の基礎 第1講

第1 総説

1 要件事実概論

(1) (民事訴訟の実質的意義)
 民事訴訟は,2以上の当事者間における私的な法的紛争が生じた場合の,国家が関与することによって,権力による裏付けの下に強制的に権利の実現を図ろうとする営みである。
(2) (「私的な」の意味)
 ここにいう「私的な」とは,「公的な」という文言と対置されるもので,国家のみ専属する権限ないし権能に基づく法律行為ないし事実行為以外のもの一般を指す。
 もっとも,私的な紛争においても,公的な側面が存在する場合も否めないし,その逆もまた然りである。
(3) (「法的紛争」の意味)
 「法的紛争」とは,実体法上,何らかの権利義務が発生していると当事者の一方あるいは双方が認識しているにもかかわらず,その権利義務が現実に作用していないことによって両当事者間に法的な評価の齟齬が生じてしまっている状況のことをいう。
(4) (権利義務の認識可能性)
 しかし,実体法上何らかの権利義務が発生している,ということは五感の作用によっては直接認識できるものではなく,そのままの状態では,本当に当該権利義務が発生しているか否かの判断はできない。
(5) (民事実体法による権利把握のための事実の要求)
 そこで,民法を含む私法実体法において,一定の事実があった場合には,権利義務が生じ,または消滅することを定め,権利義務の存否を認識することにした。
(6) (要件事実とは)
 かような権利義務の存否を認識するために要求される一定の事実のことを要件事実という。

2 事例検討①

(1) (訴訟物)
 本件は,「XY間における金銭消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金返還請求権」という権利が存在するか否かについての法的紛争である。
(2) (問題提起)
 では,本件において,Xが訴訟を提起しようとしたときに,いかなる内容の訴えを裁判所に対してなすべきなのであろうか。広きに失すると徒に審理を長引かせることになってしまうし,反対に狭きに失すると訴訟の相手方たるYにおいて適切な防御活動ができなくなってしまうため,均衡を失してしまうため,その内容が問題となる。
(3) (要件事実の摘示)
 この点,1の(4)ないし(6)で述べたとおり,権利の発生が予定されている場合には,実体法において,法律要件として抽象的文言により規定がおかれているため,第一には根拠法令ないし条文を確認すべきである。
(4) (本件における要件事実の抽出と主張内容)
 本件においては,金銭消費貸借契約が成立したか否か,について争いがあるため,(金銭)消費貸借契約につき定めた,民法587条の要件を確認する。
 同条の要件は,①目的物の返還約束,②目的物の授受であるため,Xとしては,これら2つの要件事実を主張すればよい。
(5)
 では,Yはこれに対していかなる主張をするべきか。
(6)
    Yは,Xからの訴状の送達により,当該訴状の内容を吟味した上で,どの請求原因ないし趣旨につき争うか否か,という点を精査する必要があるが,本件においては,Xの主張に対し全面的にこれを認めないのであるから,Xの主張を排斥するに足る主張をしなければならない。
(7)
    訴訟法上,YによるXの主張に反する主張のことを,抗弁といい,Yは,自らの言い分に基づき,法的根拠及びその存在を裁判官に確証させる証拠を示しながら,弁論をすることになる。