2013年12月8日

判例百選まとめ―会社法[第2版]Ⅰ「会社総則」


1.最判昭和27年2月15日 民集6巻2号77頁


定款所定のいわゆる”会社の目的”を「不動産その他財産を保存し,これが運用利殖を図ること」とするA(合資会社)の無限責任社員たるCが、Aの有する建物をX(原告)に売却し、同建物に居住しているYらを相手方にして、本件建物明渡請求に及んだ事例につき、
・1審…X請求棄却⇒X控訴
・原審…X控訴棄却(定款所定目的範囲内の行為でない・CにA社団所有の不動産売買の権限なし⇒売買契約無効)

最高裁は、

    (一般論として)
「定款に記載された目的自体に包含されない行為であっても目的遂行に必要な行為は,また,社団の目的の範囲に属する

(”目的遂行に必要な行為”の範囲基準)
定款の記載自体から観察して客観的に抽象的に必要でありうべきかどうか」という「基準に従って決すべき」 である
⇒(反対説たる「会社の定款記載の目的に現実に必要であるかどうか」という基準に対して)、「第三者としては,到底これを適格に知ることはできない」ため、取引安全の保護の要請から、第三者を基準とした、客観的・抽象的な必要性により検討すべきであるため。

(あてはめ・結論)
「本件建物の売却もこれを抽象的に観察すれば」、「必要たり得る行為である」
故に、「本件建物の売却を以ってどう社団の目的の範囲外にありとし」、「同社団は本件建物をXに売却する権能はないものとした」原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、 破棄を免れず、この点審理を尽くすべきであるため、原審に差戻す。

判例Link: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319124145494853.pdf

 2.最大判昭和45年6月24日 民集24巻6号625頁

 八幡製鉄の株主たるXが、同社を代表して自民党に政治献金をした行為に対し、同社定款目的たる「鉄鋼の製造及び販売並びにこれに附帯する事業」の範囲外に属するものであり、当該行為をなした取締役Yらの忠実義務違反ありとして提訴された事案につき、
・1審…X請求認容(非取引行為を会社がなすにあたっては、一般社会人として当該行為に反対しない社会的義務行為であることを要求するところ、政治献金はかような行為に該当しない非取引行為であるといえるため)⇒Y控訴
・原審…原判決取消し(会社も一個の社会人であって、社会に対する関係において自らを有利とする行為をなすことができ、政治献金についてもこれに包含されると解することができるため)

最高裁は、
(人権享有主体性についての憲法及び民法90条違反の点について)
  会社は、「自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであ」り、「会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はな」いのであって、「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」ため、論旨に理由はない。

(政治献金が目的の範囲外の行為であるという点について)
 我が国の憲法下における統治構造上、「政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのであ」って、「その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではない」ことから、「会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為である」といえるため、この点についても論旨に理由はない。 

(政治献金が取締役における忠実義務違反であるという点について)
 取締役としての義務につき、特段の定めの見えない以上、「商法二五四条ノ二の規定は、同法二五四条三項民法六四四条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであつて、所論のように、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができ」ず、取締役における忠実なる業務の執行については、同旨の善管注意義務の限度でその責任が生じるといえるところ、本件のごとく政治献金をなすについては、「会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたつては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべき」であって、そのような事情も見えないため、論旨に理由はない。 
 
判例Link: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122500596226.pdf
 

 3.最判昭和44年2月27日 民集23巻2号511頁

いわゆる一人会社であるところのY(代表取締役A)が、Xとの間で店舗賃貸借契約を締結し、契約満了の約一年前にXがAに対し本件店舗明渡を請求したところ、期日を指定し本件店舗を明渡す旨の念書がAによって差し入れられた。
 しかし、指定期日を経過したにもかかわらずAは、依然本件店舗を明渡さなかったために、XがAに対して本件店舗明渡請求訴訟を提起したところ、裁判所の勧告によってAX間において本件店舗を明渡す旨の和解が成立したが、Aは本件和解の当事者がA及びXであることを主張し、Y使用部分を明渡さなかったため、Yを被告とした明渡請求訴訟が提起された事例につき、
・1審…X請求認容(本件和解は、A及びAを通じてYも本件建物を明渡す旨であるため)⇒Y控訴
・原審…Y控訴棄却(同旨)

最高裁は、
(法人格付与及びその否認の場合の類型について)
 「法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであつて、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に基づいて行なわれるもの」であって、かような趣旨に反する場合、すなわち、①「法人格が全くの形骸にすぎない場合」、②法人格が「法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合」 には、 当該法人格を否認すべきである。
 
(否認を許容する理由について)
 会社法制の原則(準則主義)により、「株式会社形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人則会社であつて、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合を生じる」 可能性があって、そのような者と契約関係に入る第三者は、「その取引がはたして会社としてなされたか、または個人としてなされたか」を観念していない場合が生ずるおそれがあり、このような場合から当該第三者の「保護を必要とする」。
  かような保護を図るため、「会社名義でなされた取引であつても、相手方(註・第三者)は会社という法人格を否認して恰も法人格のないと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であつても、相手方は敢て商法五〇四条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得る」とすることが相当であることから、許容される。
  
(本件についてみると)
 Yは、「税金の軽減を図る目的のため設立した株式会社で、A自らがその代表取締役となつたのであり、会社とはいうものの、その実質は全くAの個人企業に外ならないものであ」 り、前示①に該当するといえ、本件店舗賃貸借契約の形式上の相手方がYであったとしても、「A個人に対して右店舖の賃料を請求し得、また、その明渡請求の訴訟を提起し得るのであ」るため、論旨に理由はない。
 
判例Link;http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122524162560.pdf