2013年5月24日

重判24年度版―憲法1「参議院議員定数不均衡訴訟上告審判決」

【科目】
 重判24年度版―憲法1「参議院議員定数不均衡訴訟上告審判決」

【判決・決定日時】
最大判平成24年10月17日

【収載資料】
判時2166号3頁 
判タ1383号89頁
判自362号16頁

【概要】
 平成22年施行の参院選(以下、「本件選挙」という)における議員定数不均衡状態につき、憲
法に違反するに至っていたということはできない、とした事件

【詳説】

①現行選挙制度の憲法上の立ち位置

 「どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定」は「国会の裁量に委ねられて」いる
 ↓  そのため
 「投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準」ではなく、「他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきである」
↓したがって
 「国会によって」定められた議員定数の配分が「合理性を有するものである限り、...投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められ」ても「憲法に違反するとはいえない」
↓   しかし
 投票価値が著しく不平等な状態のまま、「相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権を超えると判断される場合には...憲法に違反する」



②現行選挙制度における議員定数配分の合理性

 合理性の検討に当たっては、まず、(選挙の対象となる)両院における組織についての憲法の諸規定の趣旨を鑑みた上で、長年の「制度と社会の状況の変化を考慮」する必要がある。
↓   そこで
 規定の趣旨についてみると、「議院内閣制の下で、限られた範囲について衆議院の優越を認め」る一方で、本来的に衆院とその権能を一にする参院においても、その立法権能を担保するために「参議院議員の任期を長期とすることで、...民意を反映し、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保」するものである。
↓    次に
 「制度と社会の状況の変化」について検討すると、
(ⅰ)現代においては衆参両院における選挙制度が同質化していること(両院ともに比例代表制による選挙制度を導入。区割りこそ違えども、内面においては、都道府県や市町村単位によるブロックで区切られていることに共通点あり)、
(ⅱ)過去に比して参議院の役割が増大していること(いわゆる「ねじれ国会」現象」による、衆議院のストッパーとしての役割)
(ⅲ)衆議院総選挙においては、選挙区間の人口較差に対する基準が制定されたこと(判例等によって、おおむね2倍程度)
が挙げられるが、これらを考慮すると、参議院においても、衆議院同様、人口較差等に配慮した選挙区割りの検討(換言すると、「適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について配慮すること」)が要求されているといえるのである。
↓ したがって
 これら二つのファクターに基づいて、施行当時の選挙制度のままでよいとする合理性について件とすると、「参議院の選挙であること自体から」は、「直ちに投票価値の平等の要請が後退してよい」とする理由とはならず、この点において合理性は「見いだし難い」。



③先の司法府・立法府における判断の検討

 参院の選挙制度における都道府県ブロック制について、「都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させる」目的で制定されたものであるとした。
↓     しかし
 都道府県が「参議院議員の選挙区の単位」であることは、「憲法上要請」されたものではなく、逆にこれに固定化してしまうことで「投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続」することにつながり、「仕組み全体の見直しが必要」となってしまうのである。
↓      また
 総定数を増やすことに限界がある現状において、「都道府県を各選挙区の単位とする」選挙制度を基礎にしたまま、「投票価値の平等の実現を図る」ことは、「人口の都市部への集中」が続くわが国においては、困難であるといえる。
↓この点につき 
 参院議長の諮問機関たる参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)において、選挙制度の抜本的な見直しが指摘されており、且つ、先述の平成21年大法廷判決も同旨の判断が示されているのである。



④ ②・③の総合考慮

 以上を踏まえて、本件選挙について検討すると、公選法の平成18年改正による4増4減の措置が講ぜられていたとしても、「選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達して」いるのであって、「これを正当化すべき特別の理由」も見当たらない以上、「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた」というべきである。
↓     しかし
 平成21年大法廷判決により、選挙制度見直しの必要性が示唆されてから、本件選挙までには九ヶ月間しかないが、選挙制度の見直しには相応の検討期間を要すること、また、参議院において制度改革に向けての検討が行われている最中の選挙であることなどから、本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものであったとはいえないため、合憲(「憲法に違反するに至っていたということはできない」の)である。


【まとめ】
国会議員定数不均衡問題の検討方法

①国会の裁量権の限界を超えているか?
②投票価値の不均衡が看過し得ない程度に達しているか?
③総合考慮の結果、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたか?

この三要件をすべて具備しているときに、違憲であると判断される。