2015年10月27日

大阪放火事件の再審開始決定にみる、刑事訴訟法

ということで、2日目。

検察 特別抗告しない方針 無罪確定の公算
20年前、大阪市で住宅が全焼し、小学6年生だった女の子が死亡した火事で、母親ら2人の再審=裁判のやり直しが認められたことについて、検察が最高裁判所に特別抗告しない方針を決めたことが、捜査関係者への取材で分かりました。これにより、やり直しの裁判が始まる見通しになりましたが、検察が新たに出せる有力な証拠はないことから、2人に無罪が言い渡され、確定する公算が大きい見込みです。

    最近話題になっている、再審開始決定関連のニュース。

 1.再審って何?

    この話題をするには欠かせないのが、再審という制度。
    一般的には、「本当は無罪だったのに、裁判所や検察官の誤りのせいで有罪とされちゃった人を救う制度」っていう理解をしてるかな?(自分自身、法律の世界に毒されちゃったから、一般的な感覚がどんなものだったか分からなくなってきちゃってるから、もしかしたら、上の定義は一般的じゃないのかもしれない。)

    上の定義は、あながち間違いとも言えないけど、実は正確ではないんだよね。

    というのも、再審そのものは、「"有罪とすべきではなかった"既に確定しちゃった裁判について、もしかしたら無罪かもしれないから、もう一度審理をやり直してみて、無罪という判断になるかもしれない制度」なんだよね。

    つまり、再審自体には無罪を推定させる能力はなくて、再審での公判でもう一度審理し直して初めて、無罪になる可能性が出てくる、っていうもの。
    だから、一般的(?)な定義のいう、「本当は無罪だったのに」っていうのは適切な表現ではないわけ。

    もっとも、刑事裁判において再審自体が認められる場合の要件は、かなり厳格なもので、再審開始決定が出たときには、検察官が本当に有効な反論ができなきゃ無罪となる可能性はだいぶ高いんだけどね。



2.特別抗告って何?

   さてさて、再審制度そのものについてはそのくらいにして、今回のニュースでの核心について見ていこう。

    リンクのニュースでは、「検察が最高裁判所に特別抗告しない方針を決めた」っていってるけど、「特別抗告」って何?もっといえば、「抗告」って何?ってなると思うので、見てみよう。

   まずは、「抗告」について。

   「抗告」とは、

特に即時抗告することができる旨の規定がある場合の外、裁判所のした決定に対してこれをすることができる。(刑訴法419条)
というもの。

     簡単にいうと、裁判所が、"決定" という裁判形式によってした判断に対する不服申立て手段。

     実は、この話をするためには、"決定"   とは何か?ってのを考えなきゃいけないんだけど、それを書いちゃうと、ただでさえ長い文章が、更に長くなっちゃうから、ここでは割愛しておく。

     とりあえず、今回のニュースとの関係からいえば、再審開始の申し立てがなされた大阪高裁は、再審開始"決定"をしたから、検察官としては、この"決定"   に不服を申し立てることを考えたいわけだよね。

    しかーし!ここで問題になるのは、裁判所のした決定であっても、抗告することができないものもあるのであーる!!

    それが、「高等裁判所のした決定」であーる!!(刑訴法428条1項)

    だから、検察官は、通常の訴訟上の不服申し立ての途は絶たれた、っていうことをさすのである!!

    でもでも、そのような"決定"が必ずしも法的な正義にかなったものばかり、ともいえないよね。

    そこで、念のため、刑訴法は、433条で「特別抗告」っていう制度を設けたのだ!

     「特別抗告」は、他の不服申し立て手段がないときであって、かつ、その決定が憲法違反だったり、先例と異なる判断だった場合にのみ認められる、かなーり厳格な要件の不服申し立て手段なのだ!!


   ということで、今回みたいな、高等裁判所による再審開始決定の場合、「抗告することができない」から、「特別抗告」するほかないんだけど、検察官は、特別抗告をできるような理由がないと判断したみたいだから、再審が開始される可能性が非常に高くなったって感じ。


3.再審での審理はどんなもの?

   最後に、かるーく再審での審理の内容をみて、終わりにしよう。

    再審は、
①再審請求
②再審公判
に分けられる。

①については、
再審請求そのものが適法なものか
再審理由があるか否か
を判断する。

前者については、裁判所が自ら主体的に判断に必要な資料を集められるけど、後者については、両当事者(検察官、被告人・弁護人)が主体となって主張・立証する。

①が認められると、次に、②に移る。

②は、他の裁判手続きと同様、公判として行われ、最終的には、被告人が有罪か無罪か、有罪であればどのくらいの罪の重さとするべきかを、判決によって示すことになる。


    

2015年10月26日

東芝の”不適切会計”にみる、会社法の規律

さて、相当久々の更新である。

この数か月間、仕事にかまけて勉強がおろそかになってしまったから、反省の意も込めて、なるべく多く更新しようと思う。

ニュースをベースにして、自分なりに楽しく勉強しよう。

ということで、今日はこのニュースから。



東芝は、経営トップも含めた組織的な関与によって不正な会計処理を行っていた問題で、田中前社長ら歴代の3人の社長を含む旧経営陣を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こす方向で調整を進めていることが明らかになりました。

一見、『当然じゃない?』と思うかもしれないけど、会社法では、必ずしも『当然』とはいえないみたい。


※以下の記載は、新聞報道を元に推測を書き連ねたものです。
当該会社(東芝)からは、以下のようなIRが発表されておりますので、公式発表ではない、ということを付言しておきます。

役員責任調査委員会に係る一部報道について


1.会社法は会社を信頼している…?


 今回のニュースを分析するにあたり、会社法の規定をザーッと眺めてみた。
 学部・ローを通じてほとんど、会社法・商法に親しまなかったため、その規定ぶりがとっても新鮮だった。あんなにも定義規定が充実しているうえ、細かい分岐があったりしてわかりやすいのかわかりづらいのかさえ分からない法律は初めてだ!
 そんなことはどうでもいいとして、標題の件についてみてみよう。
 会社法847条1項は以下のように規定している。

六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。)若しくは清算人(以下この節において「発起人等」という。)の責任を追及する訴え、第百二条の二第一項、第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十三条の二第一項若しくは第二百八十六条の二第一項の規定による支払若しくは給付を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。

 さて、どうしたものか。長すぎて何が書いてあるのか全然わからない。
 ザクッと要件をまとめると、
①一定の要件を備えた株主は
②会社のお偉いさんの
③サボり(任務懈怠)による
④会社への損害について
⑤会社に対して
⑥責任追及の訴えを提起することを
⑦請求できる
っていう感じ。

 うむ。これだけみても、いまいちパッとしない。
 そこで、同条3項もみて見よう。

株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。

 こっちはシンプルだ。株主が、会社に対して同条1項の請求(「提訴請求」という)をしたのに、会社が何のアクションも起こさなかった場合には、株主がダイレクトに 責任追及等の訴えを提起できるってことだね。

 さて、この2つの条文を見比べてみて、会社法が考えていることを推測してみようか。

 きっと、会社法は、

Ⅰ.会社がお偉いさんがしたサボりに対して責任を追及するのは当然じゃね?
Ⅱ.でも、会社が何もしないってこともあるよな・・・
   (お偉いさんが違う人にすげ変わったとしても、保身のために提訴しないかも・・・)
Ⅲ.それじゃあ、会社の所有者である株主さんに活躍してもらおう
Ⅳ.でも、やっぱり本来、会社が責任追及をするのが筋だから、とりあえず、株主さんは、会社に「訴訟提起してね!!」っていえる体制を作ってあげよう
Ⅴ.そうはいっても、会社が提訴しないリスクもあるから、そこの手当として、時間で区切って、株主さんにも訴訟提起を認めてあげよう

 ってなノリで、この制度を設計したに違いない!!
以上!!!


 遠回りになったけど、結論的は、標題に書いてあることに対する回答として、
会社(というかお偉いさん)に絶対の信頼は置けないけど、とりあえず信頼しといてあげるから、ちゃんと責任追及してよね!!
ということでしょう。


2.頑張ってますよアピール?

さて、1.の話は、提訴請求について相当噛み砕いた、法律論的な側面からの検討だったわけだけれども、より現実論的には、今回の提訴のプレスは、新経営陣が”ちゃんと頑張って経営してますよ”ってのをアピールするものにみえるね。

 というのも、会社としては、上でみたように、株主からの提訴請求があってから、初めて責任追及に動き出すことが、法律上許されているから、そこまで”知らぬ存ぜぬ”でいたとしても、リーガルリスクはないわけで、それも立派なビジネス上の判断だとも思う。

 でも、役員責任調査委員会のメンバーとして、二人の元判事と一人の元検事を招聘したり、社外取締役に元検事を採用しているところをみると、旧経営陣の法的問題に対する責任追及の姿勢を整えているといえる。

 といった感じで、今回の”不適切会計”にきちんと対応するために万全な体制を整え、新経営陣として、頑張っていきます、という所信表明であるといえそうだね。


3.訴訟費用・弁護士費用の節約・・・?


 さらにさらに、株主代表訴訟が提起される前に、先手を打つように会社が提訴するとの報道が流れた背景には、お金との関係も考えられるんじゃないかと邪推する。

 というのも、もし、株主代表訴訟が提起されて、実際に責任追及の訴えが係属したとすると、株主は「株式会社のため」に訴訟を追行すること(これを「法定訴訟担当」という)になり、その判決の効力は会社にも及ぶ。(これを、「判決効の拡張」という)
 
 株主は法的知識が不足していることが多いため、弁護士に訴訟代理人をしてもらう。そうすると、弁護士費用がかかる。
 また、それ以外にも、報告会や検討にあたって様々な費用がかかる。
 
 これらの費用が、いわば”会社の関知しないところ”でかかってしまうと、会社としては困ってしまう。

 なぜかというと、株主代表訴訟において勝訴の判決を得たときには、弁護士費用や必要費用などのうち相当額を会社に請求できる決まりになっているからである。(会社法852条1項)

 そのような請求をされるくらいなら、最初から会社自身が訴訟を提起したほうが、安上がりに済むかもしれない。(規模の経済とかを考えれば、株主の一部が提訴するより、会社が提訴したほうが幾分か費用を抑えることができるかも・・・)



ということで、種々検討してみたけど、まとまりがない文章となっていること請け合いである。