2014年6月6日

【民法基礎メモ】表見代理の代理権授与表示と基本代理権 その1

   以下は,白紙委任状の冒用によって生じた表見代理を想定して記述したメモである。

例を設定して,事実を整理しながら記載する。

例1)
  AはBに対して,Dとの間で,金銭消費貸借契約を締結し,当該契約を被担保債権とする甲土地に対する抵当権設定契約についての代理権を与えた上で,受任者及び委任事項についての記載を欠く委任状(白紙委任状)をBに交付した。
  Bは,白紙委任状の受任者欄に「B」,委任事項欄に「甲土地についての売買に関する一切の件」と記載した上で,これをDに提示し,A代理人Bとして,甲土地についての売買契約を締結した。
  この場合,DがAに対していかなる主張をすることができるか,検討しなさい。

1.代理権授与表示の表見代理

(1)条文
「①第三者に対して②他人に③代理権を与えた旨を表示した④者は,⑤その代理権の範囲内において②その他人が①第三者との間でした⑥行為について,その責任を負う。…」

(2)例への当てはめ
「①Dに対して②Bに③【甲土地についての売買に関する一切の件についての代理権】を与えた旨を表示した④Aは,⑤【甲土地についての売買に関する一切の件についての代理権】の範囲内において,②Bが①Dとの間でした⑥【甲土地を目的物とする売買契約】について,その責任を負う。…

(3)解説
Q1.例1において,民法109条を適用すると仮定したときの①第三者,②他人,④(代理権を与えた旨を表示した)者とは一体誰か?

前提
  表見代理は,本来的には無権代理であるものの,権利の外観を信頼した者を保護するために特別に法が責任の在り処を変えるロジックである。
  したがって,無権代理と有権代理の中間点に位置する権利関係となるため,本来的な無権代理を有権代理と見立て検討する必要がある。
 ➡︎
有権代理における登場人物は,
ア.本人:代理権を与えて,その代理権を与えた者に,自らの代わりに法律行為をなしてもらい(代理行為),代理行為によって生じた法律効果(権利・義務)を,自らに帰属させる者
イ.代理人:本人によって代理権が与えられ,その代理権に基づき,本人に代わって意思表示をして法律行為をなす者
ウ.相手方:代理人との間で契約を締結して,本人との間で当事者関係が生じる者
の3者となるが,本来的な(有権代理)適用場面ではない,表見代理の場合においては,有権代理との混同を避けるため,呼び方が以下のように代わる。

ア’.者:109条においては,代理権を与えた旨を表示した「者」が,有権代理における,本人にあたる者
イ’.他人:俗に言う「表見代理人」にあたる者であり,有権代理における代理人にあたる者
ウ’.第三者:109条からは,他人(表見代理人)との間で何らかの行為をした者であり,有権代理における,相手方にあたる者
という呼称になる。
順次,例1に当てはめて検討すると,
①第三者は,有権代理構成の場合の相手方に相当する者であるため,いわゆる表見代理人と本件売買契約を締結したDである。
②他人は,有権代理構成の場合の代理人に相当する,いわゆる表見代理人のことを指すので,第三者(D)と本件売買契約を締結したBである。
④者は,有権代理構成の場合の本人に相当する者であるため,甲土地についての売買に関する一切の件を,(外観上) 表見代理人に対して与えていると見ることができるAである。



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