2013年9月12日

重判24年度版―刑法1「トラックのハブ輪切り破損事故とトラック製造会社の品質保証業務担当者の過失」

【科目】
重判24年度版―刑法1「トラックのハブ輪切り破損事故とトラック製造会社の品質保証業務担当者の過失」

【判決日時・種別】
最三決平成24.2.8

【収載判例集】
刑集66巻4号200頁
判時2157号133頁
判タ1373号90頁

【事実の概要】
 本件は,トラックのハブが走行中に破損したことによってタイヤが外れ,歩道上にいた母子らを死傷させたとして,被告人(同車を製造販売するA社の品質保証業務担当)が業務上過失致死傷罪(刑201)に問われた事件である。(所謂「瀬谷事故」)

第1審において,検察側は
・事故の原因となったハブが強度不足のおそれがあった(原因)
・ハブの強度不足による死傷事故の発生は予見できた(過失の基礎)
・にもかかわらずリコールなどの実施に必要な措置を漫然と怠った(過失の認定)
・よって本件事故を発生させた(結果)
として,業務上過失致死傷罪の成立を主張。

これに対し,被告人らは
・ハブにはリコール対象となるような強度不足は存在しない(防禦①⇒原因)
・車両ユーザーの整備不良・過酷な使用が原因である(反証)
・したがって,予見可能性及び結果回避可能性は認められない(防禦②⇒過失の基礎・認定)
・よって,被告人らの行為(不作為)が本件事故を発生させたとはいえない(否定⇒結果)
と主張した。

第1審・横浜地裁は
・ハブの破断事故の発生頻度等からハブの強度不足の欠陥が存在したと推認(原因)
・被告人らの職責に照らせば,予見可能性及び結果回避可能性が認められる(過失の基礎)
・したがって,被告人らの過失責任を認め(過失の認定)
・よって,本件事故を発生させたと推認することができる(結果)
として,禁錮1年執行猶予3年の判決を下した。

これに対し,被告人らが東京高裁に控訴。

第2審・東京高裁は
・本件における最大の争点は,ハブに強度不足の欠陥があった点についてではなく,事案処理当時に客観的にハブの強度不足を疑うに足りる状況があったかにより決すべきである(原因・過失の基礎の再定義)
・客観的にみれば,ハブに強度不足があったということが優にいえ,,被告人らにリコールすべき義務が生じており,当該義務を履行していれば事故発生を予防できたから,結果回避可能性が肯定される(過失の基礎)
・したがって被告人らに過失責任が生じる(過失の認定)
として,本件控訴を棄却した。(結果)

これに対し,被告人らが上告。


【判旨】

上告棄却

(原因について)
原審・原々審認定の事実関係に照らせば,強度不足は認められる

(過失の基礎について)
ハブの強度不足によって生じることが「予測される事故の重大性,多発性に加え」本件瀬谷事故をはじめとする一連のハブ脱落事故についての情報は,A社が一手に引き受けており,被告人らに与えられた「品質保証部門の部長又はグループ長の地位」として,当該「ハブを装備した車両につきリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採り,強度不足に起因する……事故の更なる発生を防止すべき業務上の義務があった」。

(過失の認定について)
過失の基礎たる業務上の義務に対する違背は,危険の現実化を招いたものであり,因果関係を認めることができ,過失があったといえる。



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