2014年7月5日

【民事訴訟法】文書提出命令その1

1文書提出命令関連規定の位置付け

第二編 第一審の訴訟手続  第四章 証拠  第五節 書証

実質的審理に入り,口頭弁論が開かれる段階に至り,証拠調べが行われるときの規範

 

①他編との比較

第一編:総則…第一審における訴訟手続を含む,訴訟手続全般に関する規定

第二編:第一審の訴訟手続…第一審における訴訟についての規定

第三編:上訴…の第一審および控訴審の訴訟手続や内容に不服があった場合などの規定

第四編:再審…判決の確定後における非常救済手段についての規定

第五編:手形小切手訴訟の特則…簡易迅速が求められる手形等訴訟についての規定

第六編:少額訴訟の特則…簡易迅速が求められる少額訴訟についての規定

第七編:督促手続…簡易迅速に債務名義を得るための簡略手続についての規定

第八編:執行停止…強制執行に至った事件への判決裁判所の関与についての規定

 

②同編他章との比較

第一章:訴え…第一審裁判所への訴え提起に関する規定

第二章:計画審理…第一章で認められた訴えについての公正迅速裁判実現のための規定

第三章:口頭弁論及びその準備…実体的審理としての広義の口頭弁論についての規定

第四章:証拠…口頭弁論において行われる第一審に証拠調べについての規定

第五章:判決…口頭弁論が終結した後の裁判所による判断についての規定

第六章:裁判によらない訴訟の完結…公権的決定に至る前の終了についての規定

第七章:大規模訴訟等に関する特則…通常訴訟規定では対応できない規模の訴訟についての規定

第八章:簡易裁判所の訴訟手続に関する特則…簡易迅速が求められる簡裁訴訟についての規定

 

③同章他節との比較

第一節:総則…証拠に関する総論的規定

第二節:証人尋問…証拠方法の1つ(人証),証人を呼んで尋問するときの規定

第三節:当事者尋問…証拠方法の1つ(人証),訴訟当事者に対する尋問についての規定

第四節:鑑定…証拠方法の1つ(人証),鑑定人の陳述・質問についての規定

第五節:書証…証拠方法の1つ(物証),証拠としての書面の取り扱いについての規定

第六節:検証物…証拠方法の1つ(物証),五感の作用によって証拠資料を得るための手続規定

第七節:証拠保全…以上の証拠方法に用いる証拠を保全するときの規定

 

 

2.書証について(Q1関連)

  1.において明らかになったとおり,文書提出命令に関する条文は,『書証』に置かれているので,まずは,『書証』の意義について検討する。

  書証とは,「文書に記載されている作成者の意思や認識を閲読して読み取った内容を事実認定のための資料とする証拠調べ(リークエp306)」そのもののことを指すのが本来的な意味である。

  書証における証拠方法は,前述の通り,『文書』であり,証拠資料は『当該文書に記載されている内容』である。

  書証は,当該文書の作成当時における作成者の意思が端的に示されており,時間経過によって変動するものではないため,当該文書の真正を明らかにした上で,査読することによって容易かつ迅速に取り調べることができるので,事実認定において極めて重要な方法であるということができるし,書証の成立如何によって訴訟自体の帰趨が変わることがあるので,大きな役割を果たしている。

 

3.書証に関する規律(Q2関連)

  通常,書証は,弁論主義の第3テーゼ(証拠原則)により,当事者間において争いのある事実についての判断をするために,当事者から提出された証拠に対して行われるものである。

  そのため,原則としては,当事者が任意に提出した証拠につき,行われるべきものであって,書証に関する民事訴訟法の規定においても,冒頭の219条で「書証の申出は,文書を提出し……なければならない」と定められている。  

  一方で,自らが有する文書のみによっては,十分な証明が困難であるが,相手方や第三者が所有する文書によれば証明が可能であることがあるが,このような場合に,弁論主義を字義通りに適用して,自分の用意できた証拠によって事実の証明ができなかったとして,その不利益を負担させることが,必ずしも,妥当でないこともある。

  すなわち,一方の当事者に情報が集中している,いわゆる証拠偏在の状況がある場合などにおいて,他方の当事者が立証責任を負っているとき,その攻撃防御に関する武器の不平等によって常に証明責任を負っている側の当事者が敗訴してしまうことになり,不平等である上,証拠が十分に提出されないことによって,実体的真実が明らかにならないことにつながり,民事訴訟の理念を達成できないことになりかねない。(もっとも,民事訴訟においては,具体的な紛争の解決に主眼が置かれていることから,実体的真実発見の要請は劣後するとの見解があり,必ずしも有効な理由付けとはならないことに注意すべきである)

  そこで,法は書証の任意提出に加え,必要な範囲における書証の強制提出の制度を設けることになった。それが,文書提出義務(220条)を課せられた者に対する,裁判所による文書提出命令(221条)である。

  なお,文書の任意的提出と強制的提出との間に,文書送付嘱託(226条)という制度を設け,文書の所持者に対して文書の送付を嘱託(依頼)することができるという中間的規定も置いた。

 

4.文書提出命令の規範(Q3関連)

  書証の1つとして行われる,相手方ないし第三者の所持する文書に対する証拠調べについては,前述の文書提出命令によって提出された文書を裁判官が閲読するか,あるいは文書送付嘱託によって裁判所に送付されてきた文書を裁判官が閲読することによってなされるのであるが,後者については,文書の所持者の任意的な協力のもとに送付してもらった文書を閲読するので,そこには法による強制は介在していないということができる。

  一方で,前者については,220条において,当該規定に該当する文書の所持者に対して「その提出を拒むことができない」としており,さらに,221条に基づき命令の申し立てを受けて,当該申し立てに理由があると認めることができると裁判所が判断した場合には,223条により,裁判所は当該文書の所持者に対して,「決定で,文書の提出を命ずる」としており,この決定に反した場合には,当該所持者が当事者か第三者かによって課される制裁が異なる。

  まず,訴訟当事者が決定の名宛人であった場合には,他方当事者の攻撃防禦方法を不当に奪っていることになるので,当事者間の公平の見地から,「当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる」(2241項)とした。また,提出義務にかかる文書を滅失し,あるいは使用不可能な状況にした場合においても,提出義務を負った当事者の責任問題として「前項(2241項)と同様とする」(2242項)として,さらに,当該文書によってのみ主張した事実が証明できる場合(法文上では「当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるとき」と表現)には,当該文書の記載に関する主張よりも広く,当該文書によって証明する予定であった「事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる」(2243項)として,提出義務に違反した当事者に訴訟上のサンクションを課している。

  次に,第三者が決定の名宛人であった場合に,提出義務に違背したときは「裁判所は,決定で,二十万円以下の過料に処する」(2251項)として,司法行政上のサンクションを課して,間接的に同義務を履行させようとしている。

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