2014年7月6日

【民事訴訟法】文書提出命令その2

5.文書提出義務ないし命令に対する不服申立て(Q4関連)

  文書提出義務に基づいて発せられる文書提出命令は,4.で明らかな通り,裁判所による決定によるものであるが,裁判所による決定又は命令については,「口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した」場合には,「抗告することができる」(3281項)としているため,文書提出命令は,抗告の対象とはならない。

  しかしながら,裁判所による決定であり,当事者において不服を申し立てる機会が保障されるべき場面であることから,2237項では,「申立てについての決定に対しては,即時抗告することができる」としており,裁判所により文書提出命令が発せられたときには,即時抗告が可能である。

  なお,文書提出命令の申立てが,当該書面についての証拠調べの必要性がないことを理由にして却下された場合には,証拠調べの必要性の判断は,受訴裁判所の専権事項(1811項)であり,同裁判所の裁量にかかるものであることから,他の裁判所にてその適否を判断することになる即時抗告は認められないとするのが判例(最決H12.12.14  民集54-3-1073)である。

  一方で,文書提出義務の不存在を理由とした文書提出命令の申立て却下決定については,220条各号に該当するか否かについてを判断することになるが,これは,受訴裁判所でなくともその該当性判断は可能であるし,むしろ,第三者的な抗告裁判所による判断を要求するほうが,より充実した証拠調べを行うことができることにつながるので,即時抗告は認められるし,むしろこのような場合が典型例として法2237項が置かれたと考えるべきである。

 

最高裁平成12310日決定・民集5431073

【判旨】抗告棄却

 「証拠調の必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却 下する決定に対しては、右必要性があることを理由として独立に不服の申立てをす ることはきないと解するの相当ある

     ※同決定の調査官解説によると

「一般に,証拠の採否の決定は受訴裁判所の専権に属するものであって,文書提出命令の申立ての採否も,これと別異に解すべき理由はない」としており,その上で,「民訴法2234項は,文書提出命令が文書の所持者に特別の義務を課すという点で,単なる証拠の採否の決定と異なることに照らし,「文書提出義務の有無」に限り,特に即時抗告を認めたもの」である,という見解を示している。

 

6.旧法における「文書提出義務」と現行法における「文書提出命義務」の異同(Q5関連)

  平成8年改正前民訴法においては,改正後民訴法2201号ないし3号に規定されている積極的要件に該当する書面の所持者に対して,文書提出義務が課せられており,同4号に規定されている消極的要件に該当する書面の所持者に対しては,対応規定を欠くことから義務が課せられていなかった。(限定列挙型)

  しかし,旧来から証拠の偏在や当事者間の武器不平等の是正は叫ばれており,現に,旧法下においても現行法条3号の「文書が挙証者の利益のために作成され,又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき」という文言を広く解して,実務では対応していたといわれている。

  一方で,当該文言を解する際の制約として,専ら自己の使用のために作成された文書については,たとえ,現行法条3号にいうところの文書に該当すると判断されても,提出義務を課さないこととしていた。

  平成8年改正においては,新たな試みとして,争点整理手続制度が導入されることとなったが,争点整理に対応して,当事者が充実した訴訟の準備を図ることができるように,文書提出義務が,相手方当事者あるいは第三者が保有する書面であり,1号から3号の積極的要件に該当し,かつ新たに追加された4号の消極的要件たる除外事由の不存在の場合には,義務が課せられることとなったのである。 

  前述の通り,旧法下における文書提出義務の運用では,判例においても,専ら自己のために使用する文書は提出義務の対象から除外されていたのであるが,現行法条4号ニでは,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」が除外事由の一として列挙されていることから,旧法下における判例の立場が立法において考慮されたと解することができるようにみえる。

  ただし,これらは沿革的に異なる制度であるということができる。

  なぜなら,先述のとおり,旧法下における専ら自己のために使用することを目的とした文書についての除外は,あくまで,現行法条3号に対応する条文の解釈の拡大に一定限度の制約を加えることを目的として設定されたものであったのに対して,現行法条4号ニの規定は,文書の提出が一般義務化されたことによって,いかなる書面であっても(たとえそれが自らが使用する意図の下でのみ作成された書面であっても,訴訟において敗訴のリスクを負うことになってしまうから)常に「裁判所への証拠としての提出」を意識しながら書かなければならないことにつながり,文書作成者の自由な活動の妨げになってしまうことを危惧して設けられた規定であるからである。

 

7.現行法における自己利用文書の一般的提出義務からの除外について(Q6関連)

  6.で述べたとおり,現行法2204号によって一般義務化された書面提出についての除外事由たる「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」であることは,旧法下におけるそれとはその趣旨を異にするということがいえるのであるが,はたして,一般義務化された段階において,立法担当者はいかなる説明をしていたのであろうか。

  この点については,法改正に際して作成された,法務省民事局参事官室編「一問一答新民事訴訟法」(商事法務研究会・1996)において,6.において解説した通りの内容を示している。

  一方で,文書提出命令に関する規定が改正された平成8年以後,幾つかの判例において,法2204号該当性が争われてきたが,そのリーディングケースといわれる判例を,必要な範囲内で紹介する。

 

最高裁平成111112日決定・民集5381787

【判旨】

「ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部のものに開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法2204号ハ(現2204号ニ)所定の『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』にあたる」

 

  最高裁は,2204号ニにつき,以上のように判示したのであるが,その要件を抽出すると,

 

1専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部のものに開示することが予定されていない文書であり,

且つ

2)当該文書が開示されることによって個人のプライバシーが害されたり,開示されることを危惧する人々の自由な意思形成を阻害するなど,開示されることで所持者の側に看過し難い不利益が生じるおそれがある場合

 

となるであろう。

  では,前示した立法担当者の意思と,本判例の要件は同一であるということができるのであろうか。

  この点,同決定についての調査官解説(小野憲一・最判解民平成11年度)において,説明があるので引用すると,

「本決定が示した右(1)の要件【筆者注・上記要件(1)に対応】は,……立法担当者の説明とほぼ同じであり,法文の字義に沿った自己利用文書概念を示したもの」

「注目されるべきは,本決定が(1)の要件に加えて(2)【筆者注・上記要件(2)に対応】の限定を加えていることである。これは,自己利用文書の範囲をさらに絞り込むことにより,文書提出義務を一般義務化し提出文書の範囲を拡大しようとした法改正の趣旨を実現することを所期したもの

とされており,本決定が,立法趣旨を解釈し,法文上明確ではないが,なおその範疇に属するであろう部分に関する絞りをかけたものである,といっているのであろう。

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