2013年10月6日

重判24年度版―民事訴訟法1「文書提出命令(公務秘密文書)―医療事故報告書」

【科目】
重判24年度版―民事訴訟法1「文書提出命令(公務秘密文書)―医療事故報告書」

【判決日時・種類】
東京高決平成23年5月17日 (抗告事件)

【収載判例集】
判時2141号36頁,判タ1370号239頁

【事実の概要】
①本件本案訴訟の概要
 Aが医療過誤(医師や看護師の安全配慮義務違反)を原因とする不法行為ないし債務不履行によって死亡したとして、Aの遺族であるXが独立行政法人国立病院機構Yを相手方として、損害金及び慰謝料を請求した事件である。
 この本案訴訟において、Xは医師らの過失を証明するため、医療自己評価委員からの付託を受けた専門医が作成した、医療事故報告書(本件報告書)の文書提出命令(民訴法220条1号及び4号に基づいたもの)を申し立てた。
②文書提出命令に対する原審の判断
 原審の東京地裁立川支部は、インカメラ手続を用いて文書提出義務を定める220条各号の規定につき検討した。その結果は以下の通りであり、これに基づいて同裁判所は決定で、本件報告書に対して文書提出命令を出した。(東京地立川支決平成23年2月9日)
(1)1号
 原告Xらは、本件報告書の要旨をまとめた文書を所持してはいるものの、本件報告書そのもは所持していないため、当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持している場合に該当しない
(2)4号ロ
 確かに公務秘密文書であることは否めないが、本件報告書が提出されることによって公共の利益が害され、あるいは公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるとはいえないため本列記事項には該当しない
(2)4号ニ
 文書の一部を削除すれば開示によって文書所持団体の意思形成過程に著しい影響を及ぼさないため、同趣旨保護のために設けられた本列記事項に該当しない

以上の地判支部決定に対してYが抗告したのが本件抗告訴訟である。


【判旨】
原決定中認容部分取消、(文書提出命令)申立て却下

(1)1号
 本件抗告訴訟において、「Xは本件報告書が民訴法220条1号に」該当すると主張しているのであるが、本件報告書の要旨についてまとめた『国立病院機構院長協議会による評価依頼結果の報告ならびに災害医療センターの見解』という甲A6号証につき、準備書面におけるYの認否としての評価内容は、甲A6号証記載の通りである旨に過ぎず、「積極的に当該文書の存在に言及した場合には当たら」ず、書証として本件報告書を提出すべきであるとはいえない
(2)4号ロ
 本件報告書は、Y内部における医療事故を調査して、「将来の医療紛争が予想される相手方らへの対応の方針を決定するための基礎資料として使用すること」が主たる目的であると推認でき、「Y内部において組織的に使用される内部文書であ」り、本件の医師には「Yの職員の職務の一環として、守秘義務を課された上」、評価を行う専門医が、公務員の立場として職務を遂行していたことが認められるから「公務員の所掌事務に属する秘密が記載されたものであることは明らかである」
 つまり、本件報告書が文書提出義務の対象となってしまうと、早期の紛争解決のために第三者的な意見を基にして形成される、今後の相手方への対応の指針についての意見の表明を比較的短時間で行わなければならない報告事務の趨勢を医療関係者や患者側関係者にも提示しなければならないことになるが、この提出によって非難・批判がなされることは想像に難くなく、「自由かつ率直な意見の表明」をするという、報告書作成の意図や表明自体の「支障を来すこととなるおそれが十分に考えられるところであ」って、公務としての報告「の遂行に著しい支障を生じるおそれが具体的に存在すると」認められるため、本列記事項に該当する
(3)4号ニ
 本件報告書は、公務員によって作成された文書であるといえるため、本列記事項括弧書きのいう、「国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるもの」に準ずるものであると解するため、本列記事項にも該当する

として、原決定における3つの該当性不充足の判断を覆した上で、本件文書の提出義務を否定した。

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