2013年10月12日

重判24年度版―民法2「消費者契約である生命保険契約における保険料不払いによる無催告失効条項の効力」

【科目】
重判24年度版―民法2「消費者契約である生命保険契約における保険料不払いによる無催告失効条項の効力」

【判決日時・種類】
最判平成24年3月16日

【収載判例集】
民集66巻5号2216頁
判時2149号315頁
判タ1370号115頁

【事実の概要】
<前提となる契約>
 本件は、被保険者たるXと保険者(生命保険会社)たるYの間において締結された医療保険契約及び生命保険契約(以下、本件各契約)につき、本件各契約締結に関わる約款所定の失効条項(以下、本件失効条項)の効力が問題となった訴訟である。なお、本件各契約は消費者契約法第2条第3項のいう「消費者契約」に該当するものであるため、もっぱら消費者契約法上において本件失効条項の効力如何が問われている。

<契約内容のうち、本件に関わる部分>
 本件各契約に関わる約款には、大要、以下の内容が規定されていた。
①保険料については各月中(初日から末日まで)に相当額を支払うこと
②猶予期間を1ヶ月と設定し、この猶予期間内に(当該前月の)保険料支払がない場合に失効とする
③なお、この猶予期間内に支払がない場合でも、支払うべき保険料相当額と(支払遅延に伴う)利息の合計額が、解約返戻金[中途解約の際に保険者より返戻される金銭(大抵は解約までに支払った保険料の幾ばくかが返される)]の額を上回らない場合には、YがXに金銭の貸付をした上で、貸し付けられた金銭によって保険料が支払われたと看做す
④保険契約が失効してから、本件各契約については、1年ないしは3年以内に、Yの承諾を得ることによって本件各契約の効力を復活させることができる

 なお、当該約款における効力について、保険料の支払い(債務の弁済)についての催告をすることなく、直截に失効させることができる、という点が争いの種となった。

<事実の流れ>
 Xは、本件各契約によって支払い義務を負っていた保険料につき、口座振替によるものとされていたところ、振替口座の預金残高不足により、①及び②に該当する状態を惹起した。
 すなわち、保険料支払いの一次的な期限である当月中はもとより、猶予期間である1ヵ月間を超えて、当該保険料を支払わなかったということとなり、契約は失効したことになった。
 その後、Xは支払うべきであった保険料を添えて本件各契約の復活をYに申し込んだところ、Yは、Xが特発性大腿骨頭壊死症(特定疾患[難病])と診断されたことを理由に本件各契約の復活を拒否した。
 そこで、XがYを相手方とした訴訟を提起した。

<本件訴訟について>
 XのYに対する本件各契約の存在を確認する訴訟である。
・第1審
 Xは、本件各契約の約款は「......消費者の利益を一方的に害する契約」であり、効力を生じない(消費者契約法第10条)ため、契約は有効なるものとして存続していると主張した。
 Yは、本件失効条項により本件各契約は失効している。消費者契約法10条違反も存在しない、とした。
 これらの主張に対し、第1審はXの請求を退け、請求棄却判決を下した。
 X控訴。
・原審
 原審は、第1審の判決を取り消し、消費者契約法10条によって、本件各契約における約款は無効であるとして、請求認容判決を下した。
 Y上告受理申立て。

【判旨】
破棄差戻し

本件各契約における約款と消費者契約法10条の関係について、

Q.信義則に反して消費者の利益を一方的に害するか否か?

<結論>
No!!

<理由>

①約款の記載上、(保険料不払いという)「債務不履行の状態が一定期間内に解消されない場合に初めて失効する旨が明確に定められている」
+約款における一定期間は、「民法541条により求められる催告期間よりも長い」
+約款条項③のごとく「1回の保険料の不払により簡単に失効しないよう」にされている
「保険契約者が保険料の不払をした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮がされているものといえる」

②約款所定の失効に至るまでの間に保険料不払についての督促をするなど、Yにおいて、約款の下に本件各契約やそれに類似する契約を締結する多数の保険契約者が自らの(保険料不払という)債務不履行を覚知できるような態勢が整えられ、かような態勢を実現すべくYが善処していると仮定するならば
「本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらない」

原審の事実認定において、かような論点の下に再度、Yの設けた約款の有効性について吟味検討させるべく、原審の判決を破棄し、更に審理を尽くさせるべく原審に差戻す。

0 件のコメント:

コメントを投稿