2013年10月7日

重判24年度版―刑事訴訟法1「参考人としての取調べと黙秘権の保障」

【科目】
重判24年度版―刑事訴訟法1「参考人としての取調べと黙秘権の保障」

【判決日時・種類】
東京高判平成22年11月1日

【収載判例集】
判タ1367号251頁、 東高刑時報61巻1-12号274頁

【事実の概要】
①訴因(公訴事実)
 大要すると、被告人が、自らの所属する消防団の受持ち区域内において連続放火事件(本件事件)を起こしたとして、現住建造物等放火(刑108)・非現住建造物等放火(同109Ⅰ)・建造物等以外放火(同110Ⅰ)の罪責を問うものである。(原審はいずれの事実も認容し、有罪判決を下した)
②本件控訴理由の基礎となった事実
 被告人が所属する消防団の団長より、被告人の挙動に不審な点があり、本件事件の犯人である可能性がある、という情報を覚知した警察が、被告人を調査する目的で尾行をしていたところ、被告人を見失ったタイミングで放火が発生したということが判明した。
 更に警察は尾行を続けていたが、数日後に、被告人が他の消防団員のために缶コーヒーを買っているタイミングでまたもや放火が発生したことから、参考人として被告人を事情聴取し、「缶コーヒーを買いに意って帰ってきた時には、誰とも会っていません」などという、被告人に不利益な内容のKS(本件調書)が作成された。
 さらに後日、被告人の同僚消防団員への事情聴取や、本件事件の発生した現場付近の防犯ビデオの解析などを行った結果、被告人による犯行である可能性が高まったため、被告人に対する通常逮捕状の発付を得たうえ、被告人を任意同行し、任意の取調べを行い、上申書を書かせて被告人を通常逮捕した。
③本件控訴理由
 原審は、公訴事実の証明の一部として、本件調書を用いていたが、本件調書は、被告人が参考人として黙秘権が告げられていない状態において作成されたものであり、証拠能力を認めることができない。したがって、証拠能力が認められない証拠として取調べが行われたことによって事実誤認が生じた、として、東京高裁に控訴した。
 
【判旨】
控訴棄却(確定)

本件調書は「捜査機関が、被告人に黙秘権を告げず、参考人として事情聴取し、しかも放火発生時の被告人の行動などに関して、被告人に不利益な事実の承認を録取した書面を作成したものであるから、……黙秘権を実質的に侵害して作成した違法がある」として、証拠能力を否定したが、本件調書を違法収集証拠として排除したとしても合理的疑いを超えた証明ができるとして、「この違法は判決に影響を及ぼすほどの違法ではな」いと述べて、原判決に事実誤認はなく、被告人側の控訴を棄却した。

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