2013年8月12日

憲法1-1.憲法適合性審査基準のあらまし

【科目】憲法

【概要】憲法適合性審査基準についての検討(1)

【詳説】
1.憲法適合性審査基準のあらまし
(1)
 わが国における憲法適合性審査基準は、法令あるいはその適用が憲法適合性の点で問題となった各種判例の帰納的分析により導出された、講学上のものであり、事案の性質に応じた問題解決に当たり拠るべき判断のメルクマールとなっている。
 ある法令ないしその適用が憲法に適合するか否かについての判断は、原則として、各事件における事実及び証拠によって区々となるものであり、必ずしも類似の全事例で適用されるべき一般的な基準が立てられないのが、付随的審査に基づく憲法審査の限界である。
(2)
 わが国の現在の憲法学における、憲法適合性審査基準についての帰納的分析の成果として挙げられる通説的な見解は、所謂「二重の基準(Double Standard)」と呼ばれるものである。
 この基準については、次項において詳述するが、現行日本国憲法の解釈には、その草案が英米法、殊にアメリカ判例理論に大きく影響を受けたものとなっていることから、アメリカの判例基準が用いられることになったといわれている。
 "Double Standard"と”二重の基準”は、必ずしも同一のものと解することはできないが、根底となる理論構成については、共通する点が多い。これらの共通点については、別稿において検討することにするが、共通点があることには留意すべきである。
(3)
 そのため、多くの憲法学者はアメリカ合衆国憲法の体系的理解及び連邦最高裁判所(Supreme Court of the United States 、以下SCOTUS)の判例解釈を通じて、わが国の憲法論を構成するよう試みた。
 その中で、わが国の憲法学における通説的見解を構成したといわれているのが、芦部信喜博士である。
 彼は、戦前の大日本帝国憲法(明治憲法)下における憲法学の通説といわれる見解を主張した宮澤俊義氏に師事し、師の見解を承継した上で自説を構成したといわれている。
(4)
 本稿においては、
①まず現行日本国憲法下における憲法適合性審査基準についての通説的見解である「二重の基準」論を(ⅰ)判例に立脚した分析,(ⅱ)芦部博士の主張する見解に立脚した分析に分けて検討する。
②そののち、現在わが国の憲法学者において有力に主張されている審査基準である「三段階審査基準」に焦点を当て、かような基準がいかにして生まれ、わが国において主張されるに至ったか、そして、通説的見解たる「二重の基準」との比較を通じて、その利点・欠点を詳らかにする。
③最後に、近時の判例を上の2つの基準に照らして検討することで、それぞれの基準の判断の差異を確認する。
という、3つの作業を通じて、現在におけるわが国の憲法学の実態を明らかにしていくこととする。


【まとめ】
 わが国における憲法適合性審査基準を理解するため、①所謂「芦部説」及び同説に基づく判例の検討、②近時有力に主張されているところの「三段階審査基準」にフォーカスをあて、その沿革を確認・現行制度に適合するかを検討、③「二重の基準」と「三段階審査基準」の異同を明らかにすること、を通じてわが国の憲法学における議論の実態を詳述していく。

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